主人公はブラック企業の社員【ちょっと今から仕事やめてくる】

書評

こんにちは! 物書きの忍者です!

今回は、第21回電撃小説大賞メディアワークス文庫賞を受賞した北川恵海さんの作品『ちょっと今から仕事やめてくる』を紹介していきたいと思います。

大学の四年生は就職活動を終えて、四月には会社への就職を控えた新社会人として期待と不安を抱いていることと思います。もしくは、未だに就職が決まらず自分がダメな奴なのだと、見えない何かに押しつぶされそうになっている人もいると思います。

そして、三年生は三月の説明会解禁を間近に控え緊張しているかもしれません。新型コロナによる影響で、さらに不安を抱いている方も多いと思います。

そんな時にこんなタイトルの本を紹介するなんてふざけているのか! と取られるかもしれませんが、そう思われたなら申し訳ありません。

ですが、今回私がこの本を紹介しようと思ったのは、今まさに不安や暗い気持ちに飲み込まれている学生の皆さんに読んでもらいたいと思ったからです。

主人公はブラック企業の社員

この作品は、明確な目標があるわけでもなく周りの空気に流される形で就職活動に勤しみ、所謂ブラック企業に就職してしまった主人公・青山隆が、仕事で心身共に疲れ果て無意識に線路に飛び込んでしまうところから物語が始まります。線路に飛び込む彼は、昔同級生だったというヤマモトと名乗る男に助けられて意気投合します。

衰弱していた隆でしたがヤマモトと接していくうちに、気持ちが軽くなり、会社での待遇もほんの少し改善でき、次第に心を開いていきます。

そんな時、どうしても思い出せない同級生のヤマモトについて調べていた隆は、ヤマモトと思われる人物が存在しないことを知ります。自分は今まで誰と飲んでいたのか? 不安になる隆に追い打ちをかける様に会社で覚えのないミスが発生します。上司への罵声に信頼していた先輩からの冷たい態度、徐々に明るくなっていた隆はまた絶望の淵まで突き落とされます。

ヤマモトは何者なのか? 隆はこの先どうなってしまうのか?

ここまでの紹介を読んで、この作品を読んだら余計暗い気持ちになるのではないかと思われるかもしれませんが、そんなことはありません!

この作品の魅力であり、私が皆さんに是非読んでもらい点は二つです。

  • ヤマモトの投げかける言葉
  • 隆が選ぶ道

これから具体的に説明します。

ヤマモトの投げかける言葉

作中で落ち込む隆にヤマモトは色々な助言をします。突拍子もないものもありますが、ヤマモトの行動や言葉の一つ一つには、社会に揉まれ疲れ切った隆を救おうとする優しさがあります。それは作品の後半で明らかになる彼の境遇にも深く関わっているのですが、ヤマモトの言葉はこれから社会に出る読者の皆さんや、既に疲れ切っている方たちにも救いをくれます。

隆が選ぶ道

ブラック企業という過酷な環境で寿命を削るように働く彼の姿は、自分の未来の姿に見える人。自分とは無関係なただの偶像と見る人。もしくは、過酷な仕事場で今まさに体験している自分の分身の様に見る人もいるかもしれません。

その中で、私が見てほしいのは、隆が作中で何を考え、何を感じ、そしてどう行動したかを見てほしいのです!

隆が最後にとった行動には賛否両論があると思います。現実ではありえないと一蹴されてしまうかもしれません。ただ、彼がとった行動も選択肢の一つとして、読者の皆さんにはこういった考え方もあるのだと肩の力を抜いて、社会に対する不安だけでなく勇気を持ってほしいのです。

逃げるが勝ちという言葉があります。起源は宋の将軍であった檀道済が書いた『三十六計』という中国の兵法書にかかれた「三十六計逃げるに如かず」という記述が由来だとされています。

逃げることは決して負けではありません! 昔の兵法書に書かれている程、歴とした戦略なのです!

さいご

今回は、北川恵海さんの作品『ちょっと今から仕事やめてくる』を紹介しました。

最後に少しだけ、昔の話をします。興味のない方は無視してください(汗)

私は大学生時代、卒業が決まってからも就職先が決まりませんでした。留年するという選択肢もあったのですが、その年は同学年で私以外に就職にあぶれる者もおらず、学費を払ってくれている両親への気持ちもあり、どうしても留年することが出来ませんでした。

就職が決まったのが、卒論の提出が終わり卒業が決まって以降の事でした。それまでは、図書館で目に付いた自己啓発の本を内容に関係なく片っ端から乱読するか、面接に行くかの繰り返しでした。このとき読んだ本の内容は記憶に全く残っていません。

当時、この作品に出会っていたらもう少し楽な気持になれたと思います。

就職が決まった時は、この作品の主人公の様に流されて就職活動をしていたのですが、就職した喜びや就職先の不安よりも、「早く就職しろ!」という周囲の圧力からようやく解放されたという安心感が強かったことを覚えています。

ですので、読者の皆さんに作中の言葉を一つだけ伝えたいと思います。

「簡単じゃなくてもいい。むしろ簡単じゃいけないんです。僕は、この会社を簡単に選びすぎた。時間をかけるのが怖くて、内定をもらえりゃどこでもいいなんて、仕事なんてそんな気持ちで決めるもんじゃなかった。次は本当にやりたいことを見つけますよ。時間がかかったっていい、ステータスなんてなくたっていい。たとえ無職になったって、最後に自分の人生、後悔しないような道を見つけてみせますよ」

この作品に興味を持って頂けたなら、ぜひ読んでみてください! この本を傍らに置いて、皆さんが後悔しない人生を歩めるよう願っています!

最後までお読み頂きありがとうございました。

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